女の一生

 モーパッサンの「女の一生」という小説がある。未来を
夢見る、まさにキラキラした少女が、やがて結婚し、夫の
不倫に悩み、子どもの成長を生きがいにするも、その子ど
もも女性のもとに走って子ども(孫)をつくり、その孫を
育てるはめになる、何とも損な疲れるばかりの人生を送る
暗い小説である。一般的な「女」の一生じゃなくて、「そ
の女」の一生、ということにしてほしい、と思ったものだ
けれど、多感な頃に読んだので、(不倫はともかく、女の
一生なんて家の中のごたごたばかり引き受ける、損な人生
なんだね)と納得したものだ。自分の父と母を見ていても、
父は横暴で勝手だったし、それに対して私が文句を言うと、
母はひたすら「子どもは口を出すな」と言うばかりで父の
言いなりで、(どうして離婚しないんだろうな)と思いな
がら育った。だから結婚なんか絶対にしたくないし、そも
そも父の子孫を残したくないし、仮に結婚したとしても、
女も十分な経済力をもたなければならない、と思った。
 今日の明け方、親戚のお婆ちゃんが亡くなった。危篤に
陥ったときに母に電話したら、
「・・・無念でしょうね」
と言った。
 そのお婆ちゃんは、自分の夫が大嫌いで、しかし離婚す
るわけにもいかず、会うたびに夫のことを憎しとばかりに、
死ねばいい、とばかりに、悪く言っていた。最初は半分冗
談だろう、と思っていたけれど、殊にこの1年は、同じ部
屋にいるのも嫌だし、お墓も別がいい、というありさまで、
あのじじー(夫)には施設に入ってほしい、と、心底、願
っていた。あまりにも子どもたちにそれを懇願するので、
子どもたちは夫の方を施設に入れるための準備を細々とは
していたが、家族のためにずっと働いてきた父親を施設に
入れる決断ができなかった。私も、外で働く大変さを知っ
ているだけに、働いてきた男の人を施設に入れてその年金
で妻が暮らすという形はどうなのだろう、と少しばかり疑
問に思っていた。が、世間の主婦は、それが当然だと言う。
夫が働いてこられたのは、何よりも妻の献身あってのこと、
という考え方だろう。しかし、本当にそうだろうか。
 そこはともかく、夫が施設に入れるかもしれない、とい
う「下準備」が整い始めた頃に、彼女の体調が急激に悪化
した。そのときも、まだ、
「早く、じーさんを施設に入れてくれ」
と懇願していた。が、当人が入院することになって、あっ
という間に亡くなってしまった。周りは、夫の方が先に亡
くなるだろう、と思っていたので、その病状の悪化する速
さに驚いた。亡くなってもっと驚いた。だから家族のほと
んどが死に目に会えなかった。まさかの死である。
 家族のために家の中で働いて、それを誰にも感謝されず、
孫の面倒まで見て、この8月まで、家族全員の身の回り、
家の中の片づけをすべてこなしていた。
「この年になっても主婦なのよ」
といつも怒っていた。その怒りは全部、年老いた夫に向い
た。経済的に別居も離婚もできない。そして、「夫は自分
より先に死ぬ。」と信じていた。病気になってからは、願
望が強すぎたのか、
「じーちゃん(夫)が死んだ、と、息子から電話があった
のよ」
と言い出すこともあった。もちろん、夫は死んでいなかっ
たので、周りはボケたのだと心配した。少しばかり、ボケ
始めていた。そして、自分が先に逝ってしまった。
 不思議なもので、人が死ぬと、なぜか、亡くなった当人
の意思が影響している気がする。死ぬ時期、死に方、その
すべてに、当人の生き様が反映されている気がするのだ。
夫が先に死ぬのを待ちきれなかった。嫌だ嫌だ、と、毎日
言いながら、夫を含めた家族の世話をするのに疲れてしま
った。生きているのが嫌になってしまったのかな、と思う。
怒りや悲しみは命を縮める。
 彼女の罵詈雑言を思い出すと、ますます、自分は経済力
を維持して、いざというときには別居できるようにしてお
こうと思う。しかし、それ以上に、やはり、できるだけ楽
しい気持ちで家族や親しい人たちと労わりあって暮らせれ
ば、感謝できるのであれば、それに増す幸せはないだろう、
とも思う。そういう風に生きられるかどうか、死ねるかど
うかは、これからにかかっている。

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by akira_dai | 2016-12-15 08:39

AKIRAの日常、考えたこと、など。平凡です。